可視化手法による波の遡上運動の内部機構解明


-可視化手法-

人の目では見えない気体・流体の運動が確認できるように、微細な粒子(トレーサー)を入れ、気体・流体と共に挙動する粒子の動きを観察する方法です。
本研究では、波の遡上機構を解明するために水槽中の水流体の中に50μmのナイロン樹脂粒子を注入してレーザーで照射することにより、流体内部の運動を可視化します。粒子の動きを高速ビデオカメラで撮影した後、映像はパソコンにモノクロ画像として取り込んでPIVアルゴリズムを用いた解析を行います。

PIVアルゴリズムとは?

 Particle Image Velocimetryの略で、文字通り何個かの粒子をイメージとしてとらえ(言いかえると濃淡分布としてとらえ)、時刻毎の移動量から流速ベクトルを算出するアルゴリズムです。可視化画像の濃淡分布は、2枚の画像の撮影時間間隔は非常に短いために濃淡分布のパターンは殆ど変化しません。ですから画像を縦横いくつかのメッシュに分割し、その1つの小さな領域について次の時刻の画像から最も似ている濃淡分布領域を探せばいいわけです。他にもPTV(Particle Tracking Velocimetry)があり、前者のイメージをとらえる概念とは異なり粒子1つ1つを追跡する方法もありますが、本研究では前者のPIVを用いて解析しています。



どこを可視化するか?

 波は岸に近づくにつれて(水深が低くなるにつれて)波高が高くなり、さらに変形が進行して水粒子が波の速度より上回ると砕ける(砕波)。そして砕波によって波エネルギーの相当部分が消散されてから、海岸を遡上することになります。その遡上域の運動内部構造は従来の計測器では計測できませんでした。しかし、今回用いる可視化手法であれば流体に接触することなく撮影ができるため、流体内部で行われている運動そのものを調べることができます。





 高速ビデオカメラで撮影された画像にベクトル図をoverlayした図です。画面に向かって左が岸側になり斜面は1/30勾配、波の周期を7.0(s)に設定していますので1秒間に240枚のフレームを取得した場合、1周期あたり1680枚の可視化画像が得られるわけです。その中でも流体が渦を巻いている様子がよく分かる一枚を取り上げました。ちょうどこの瞬間は岸(左)の方から引き波が、沖(右)の方から打ち上げ波の前面を登る様子が確認できます。得られる画像はモノクロ画像でシャッタースピードを最大1/10000(s)で撮影することが可能ですから、素早い流体の動きもしっかりと捉えることが可能です。画像の白い部分は注入したトレーサー粒子でこの粒子の挙動を時々刻々と追いながら流体内部の動きを観察するわけです。